中華製トランシーバーT38をレビュー

TL;DR

T38って何?

T38とは、中国で製造されているトランシーバーで、日本のAmazonでWestayinという店舗からマーケットプレイスで販売されています。

他にもT48やT18,T88といった亜種が複数あるようです。T48は数年前によく飛ぶと話題になりました。

T38は特定小電力トランシーバーなので、申請も免許も不要で使えます。感覚的にはWi-FiやBluetoothと同じような小電力無線局に該当します。ただし、使用には技適マークのついた機器である必要があります。

この記事では、青色と黒色のT38を2台購入したので、詳細をレポートしていこうと思います。

T38の外装

T38はこのような箱に入っていて、箱には技適マーク「210-134033」が書かれていますが、実際にトランシーバーの裏面に記載されている技適マークとは異なります。

正面と背面の画像です。USBケーブル(画像では1つしか写っていませんが2台とも付属)が付属していました。なお、貼ってあるテープは音がうるさいのでスピーカーを塞ぐためにこちらで貼ったもので、付属はしていません。本体には技適マーク「211-230603」が確認でき、総務省のデータベースでも認証を受けた機器であると確認できます。おそらく部品変更で箱にある技適番号から変更されたと思われます。

送受信実験

電源を入れてチャンネル数を確認。電源は単4乾電池3本かUSB-Cでの給電です。チャンネル数は20チャンネルなので、合法の特定小電力トランシーバーである可能性は高そうです。22チャンネルになっているのはアメリカのFRSで、日本では違法になります。まれにT48やT38と同じ形状でFRSの無線機が日本でも販売されていますが、こういったものは違法なので購入しないようにしましょう。

実際にテスト送信してみると、ちゃんと通話できました。

ところが... 18チャンネルで送信していると、18チャンネルと1チャンネルが繋がっているという不思議な事態になりました。18チャンネルで送信すると、1チャンネルからくっきりと音声が聞こえてきます。面白いことに、逆に1チャンネルで送信しても反応がありませんでした。以下の画像では、1チャンネルにしてあるトランシーバーが反応しています。(右下の受信マークが点灯)

何かがおかしい

これは何かがおかしいと思い、アマチュア無線機を出してきて周波数を確認することにしました。18チャンネルと1チャンネルが繋がるということは、設定したチャンネルよりも低い周波数で電波が出てしまっていることになります。このように関係ない周波数で不要な電波が発射されてしまうことをスプリアスといって、電波法で厳しく規制されていますし、こんな機械では技適が通らない(はず)です。

アマチュア無線機で周波数を確認します。右側にあるのがアマチュア無線機です。アマチュア無線機はID-50で、測定用のアンテナは純正ホイップアンテナです。

画面の上部のAバンドでは不要な周波数を受信し、Bバンドでは本来の合法な特小の周波数を受信しています。周波数の下にあるバーはSメーターで、電波が強くなるほど右側に振れていきます。

※アマチュア無線機を使うには免許が必要です。受信のみを目的に所持していても免許が無ければ不法局として罰せられますのでご注意ください。私は免許を取得済みです。免許をお持ちでない方が同じような実験をしたい場合は、広帯域受信機をおすすめします。
他のチャンネルでの実験画像はこちら 2CH
3CH
4CH
5CH
6CH
7CH
8CH
9CH
10CH
11CH
12CH
13CH
14CH
15CH
16CH
17CH
18CH
19CH
20CH

これはアウト!

間違いなく、関係ない周波数で電波が出ていることがわかりました。さらに、画像はありませんが6畳の部屋の隅どうしにアマチュア無線機とT38を置いて(5m位の距離)同条件で測定しても強くスプリアスが出ていて、違う周波数でばっちりと音声がでていました。これは微弱電波で済まされる範囲を明らかに超えています。

おまけに、T38はさらに技術基準不適合になるであろう部分があります。まず、本体が容易に分解できる構造になっています。画像に写すことはできませんでしたが、家庭用の工具では開かない(という建前の)Y字ネジではなく、通常のプラスネジが使われています。特小は容易に分解できる構造であってはいけません。
もう一つ、特定小電力トランシーバーは、他局が通信中は電波を出せないようにする必要があります(キャリアセンス機能)。T38もこの機能を搭載していますが、CTCSS(トーンスケルチやグループトーク、サブチャンネルとも呼ばれることがある)を有効にするとキャリアセンスが働かなくなることを確認しました。これでは他局の迷惑になってしまいます。

趣味でアマチュア無線をやっていたのでこの事態に気づくことができましたが、もしアマチュア無線機を持っていなかったら気づかなかったでしょう。こんな機器を、例えば小学生が買ってもらってトランシーバーごっこをしたり、一般の方が気づかずレジャーやビジネスに使って、電波法違反になってしまうわけです。

T38には技適マークがあり、技適マークのついた機器は日本で合法であることが国の検査で証明されている(はずな)のです。なので、そういった機器が不法な電波を出すことはまずありえない(でしょう)し、そういった機器で不法電波を出してしまった場合の規定なども電波法はおそらく想定していないでしょう。(厳密な法律の解釈については弁護士等にご相談ください。

これはいわゆる法律の「グレーゾーン」だと思います。この機械を使っていいのかどうかは曖昧です。しかし電波が出ていたのは事実、このまま有耶無耶にしてしまうとまずいと思い、然るべき場所に報告することにしました。

東北総合通信局に報告

T38はスプリアスが強すぎ、正規の無線局に妨害を与えてしまうので、(技適マークを取得していながら不法な電波を発射している)総務省 東北総合通信局にこの件を報告しました。現在私のT38は電池を抜いて電波を発射できない状態にして保管しています。現在は連絡待ちで、今後も捜査には協力していきたいと思います。

まとめ

T38は日本では違法になる可能性が高いです。違法にならなくとも、他の正規の無線局を妨害してしまうことになるので購入は控えましょう。